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megamouthの葬列

長い旅路の終わり

Webディレクターだけど、異世界の開発会社に転生した -中編-

なろう小説

megamouth.hateblo.jp

の続き

執政官(アドミニストレーター

翌日、僕とエイダとジャムスは、公爵の館に来ていた。

エイダ「あなたの言うとおり、私の伝手で向こうの執政官とは話を通したけど、どうするつもりなの?」

と、不安そうに言った。まだ何も成果物を上げていないのに、クライアントに乗り込んでその実務担当者を呼ぶ、という行為に戸惑いを覚えているようだ。
ジャムスは豪華な椅子の座り心地が悪いのか、モゾモゾと背中をずらしたりして居心地が悪そうにしている。

僕「これでいいんだよ。むしろ、こうしないと何も始まらない。それより、向こうの執政官というのは、どういう人なんだ?」

エイダ「…頭はいいけど、嫌味でいけ好かない奴よ。それにあいつは…」

小声で言いかけたところで、大広間の扉がゆっくりと開いた。一同に緊張が走る。

長槍を持った二人の従者がすばやく扉をくぐり抜けて、執政官を待ち受ける。
その間を悠然とした歩調でやって来たのは、意外にも細身の執務服に身を包んだ若い女性だった。

彼女は長い黒髪を揺らしながら我々とは反対側を歩いて、エイダを一瞥すると、意味ありげな微笑みを送った。ゾッとするほど美しく優雅な微笑みだった。
そしてそのまま、僕達と対面するように座る。
従者が両脇ですぐさま気をつけの姿勢をとって金属製のブーツがカチャリと音を立てた。

女性「公爵様の執政官を勤めております、フリーダと申します。お見知りおきを」

と、落ち着き払った口調で言った。

僕「お目にかかれまして光栄です」

フリーダ「久しぶりね、エイダ。魔法のお勉強は順調かしら?」

半ば僕を無視するようにフリーダはエイダを見据える。エイダの瞳は少し敵意をはらんでいるように見える。

エイダ「順調よ。今日は時間を作ってもらって悪かったわね」

フリーダ「どういたしまして。幼馴染のたってのお願いだもの。少しばかりの時間を割くぐらいはやってあげないとね」

と答える。どうも二人には過去に何かしら因縁があるようだ。しかし、そんなことを気にしている場合ではなかった。


僕「今日は、公爵様の義勇兵応募フォームについて、お聞きしたいことがあって参りました」

フリーダ「そう?要求仕様書に全て書いたつもりだったけど、何か不足があったかしら」

その時に、初めて僕に気づいたような態度で、フリーダはわざとらしく驚いた様子を見せた。

僕「いえ、要求仕様書に問題はございません。少しご確認をさせていただきたかっただけです」

フリーダ「確認?それだけの為に?」

彼女の黒い瞳が冷たく光った。

僕「率直に申し上げますが、いささか実際の運用とかけ離れているのではないか、と思ったものですから」

冷たい瞳をしたままフリーダは優雅な微笑を浮かべた。僕という人間の力量を推し量ろうとしている。直感的に感じた。

フリーダ「例えばどういうところかしら?」

僕「応募者の振り分けをするところです。例えば、若すぎるもの、以前の徴兵に耐えられなかったものを除外する、というのは理解できます。しかし、ある特殊な入力した人物を取り扱う項目、ここが、かなり複雑な処理を必要としているようですが、その意味あいをお尋ねしたいのです。」


フリーダ「随分と遠慮のないこと!エイダは失礼な友人をお持ちのようね」

とエイダを見据える。エイダは伏し目がちにその視線から逃れようとしていた。

フリーダは満足そうに微笑むと、再び僕のほうを向いた。

フリーダ「それはね。傭兵の応募のことよ」


ジャムス「なんだって!義勇兵に金で雇われる兵が応募するのか!」

思わず声を上げる。フリーダが汚物を見るような目でジャムスを見た。エイダは手元をじっと見ている。



フリーダ「長らく戦乱が続いておりますのよ。いかに無知蒙昧な庶民と言えど、そう簡単に義勇兵が集まる保証はありませんわ」

僕「つまり、内々に金を払って、義勇兵を水増しする、ということですね」

遠慮せずに僕は言った。フリーダは不愉快そうに僕を見咎める。

フリーダ「正確には公爵様のご威光に預からんと自ら志願しているのです。ですが、こちらも報酬はお支払いたしますから、大きな意味の違いはありませんわね。」

と、一切の白々しさもなく言った。

僕「今まで、義勇兵の応募は、手動で行われてきましたね。」

フリーダ「ええ。城門の前に受付を置いてね」

僕「では、傭兵の応募に関しては、応募フォームを使用しないようにしてはいかがでしょうか?」

フリーダ「あら。何故そんなことをする必要があるのかしら?」

挑戦的な目つきが僕を捕らえていた。ここからは細心の注意が必要になる。僕は気を引き締めた。

僕「理由は二つあります。城門前の受付所は廃止されるわけではありません。未だPCやスマホを所有しておらぬ民もおりますので。
どちらにせよ、こうした応募の処理は手作業になりますので、傭兵の応募も手作業で行うことに問題はないかと思います。」

一呼吸入れる。

僕「そしてもう一つは、応募フォームを設置することで、受付所に人が集まらなくなります。
これは、公爵様のご威光に、良からぬ風評を与えるのではないでしょうか?
傭兵の一団が受付所に来るようにすれば、そのような懸念をする必要はなくなります。」

言い切った。僕はあくまで平静に、クライアントの利益を第一に考えているという顔を維持した。



フリーダ「…そして、あなた方の負担も軽くなる、というわけですわね?」

エイダ「!」

彼女にはすでにお見通しだったわけだ。
傭兵の募集を別扱いにし、データベースを賃金払いなどに利用する、という点は、要求された仕様の中で複雑で、最も大きなウェイトを占めていた。僕はその削減を図ろうとしたわけだが…

フリーダ「あなた方の魂胆は見え透いています。魔法使いというのは、いつも楽をしようとするのね」

僕はすかさずエイダにアイコンタクトを送った。エイダはすぐにそれに答えて、羊皮紙の束を取り出した。

エイダ「これが仕様書よ。傭兵の応募をサポートした場合のね」

フリーダの顔にありありと驚きの表情が浮かんだ。まだ発注して1日もたっていないというのに仕様書が出来上がっているのは意外だったようだ。僕とエイダが徹夜で仕上げたものだった。

エイダ「そして、これが傭兵の応募をサポートしなかった場合」

とエイダは仕様書の半分ほどを分けて、二つの山にし、少ない方の束を指差した。

エイダ「確かに。あなたの言うとおり、傭兵をサポートしないほうが私達は楽できる。でもそれはあなたも同じではない?」

システムは納品して終わりではない。それをチェックし、正常に動くかを検証するのは執政官であるフリーダの仕事になるのだ。仕様が薄くなれば、フリーダの負担もそれだけ減ることになる。さらに…

エイダ「あなたの要求仕様書の画面は今回初めて作るもの。つまりあなた側のスタッフは今回のシステムを運用したことがない。
だから、今回応募フォームを導入することで運用上のトラブルが発生するリスクもある」

フリーダ「確かに傭兵の応募処理は複雑な運用が必要になるわね。ミスも増えるかもしれません」

エイダ「傭兵は現金主義よ。電子決済でなく。金貨の袋をリーダーに与えて、あとは彼らに任せたほうが上手くいく」

フリーダ「それに私達も楽ができる、そう言いたいのね?」

エイダは静かに頷いた。

長い沈黙が続いた。フリーダは羊皮紙をめくって、凄まじい速さで仕様書を読み込んでいく。

ふとその手が止まった。



フリーダ「いいわ。傭兵の応募処理は従来通りにいたしましょう。城門前の受付所に傭兵たちが群がる必要もあるようだし」

そして少ないほうの仕様書の束を手に取った。

フリーダ「エイダはいいパートナーを持ったわね。少しばかり小賢しいけれど」

つまらなさそうな顔をして言った。
エイダの顔が真っ赤に染まる。空気になっていたジャムスが含み笑いをした。

帰り道(プロムナード)

エイダ「もーどうなることかと思ったわよ!」

公爵の館からの帰り道、王都の石畳の道を歩きながら、緊張がほどけたエイダが言った。

僕「そうだね。思ったよりも鋭い人だった。あんなに若くて…」

エイダ「若くて?何?」

僕「い、いやなんでもない」

ジャムス「しかし、良かったな。これで大分実装の負担が減る。あと9日だが、なんとかなるかもしれないな」

わざと大声を上げて、険悪な空気を消そうとした。

ジャイム「ここからは俺たちの仕事だな。まあ最後の3日ぐらいは徹夜になるだろうが…」

僕「いや。徹夜はもうなしだ」

エイダ「どういうこと?」

僕「仕様はまだまだ削れる。それにシステムの使い勝手だってそれほどよくない。」

エイダ「まだ仕様を変更するっていうの?あんなにがんばって作ったのに」

僕「仕様は設計だ。設計は何度かやり直したほうがいい。実装をやり直すよりずっと早い。」

エイダ「でも、フリーダは仕様書を承認したわよ」

僕「何度でも確認してもらうのさ。システムの使い勝手と運用ミスを減らすためだ。協力してもらう」

エイダ「ちょっと待って!フリーダとまた会うの!?」

僕「そうだよ。できれば、あと二回は打ち合わせしたい。ああ、その時は試作品ができていればいいね」

エイダ「それはいいけど。二回もあの、嫌味な女と会わなきゃいけないっていうの?」

僕「?いや、エイダが嫌なら僕だけが行っても問題ないけど」

エイダ「そっちのほうが問題よ!」

僕達の背中が夕日に照らされて3つの影を作る。

王都は夜の帳に包まれようとしている。しかし、僕達の仕事はここからはじまるのだ。

「作る」こと「語る」こと、その呪い

随想

昔の恋人に名を呼ばれたような気がして、目が覚めた。

彼女は時々夢の中に現れる。
そうした時はとても暖かく、いい夢だったと感じる。
おそらくは彼女は既に自分と統合されて内なる神となっていて、私はそれを「アニマ」という聞きかじった言葉で呼んでいるけれど、心理学上の定義はともかくとして、彼女の出現は私の精神に、ある歯止めをかけているようには感じている。

こういう夜にしか書けないことがあるような気がしたので、特に何も考えずに書く。

語ること

最近プログラミングや自分のプログラマ人生の周辺について「語る」ことが多くなった。

そういえば音楽を辞めかけていた時も、私はよく音楽を「語って」いた。

誰かに聞いたのか、自分で考えたのかを忘れたが「洞察は絶望から生まれる」という言葉があって、つまりはそういうことだと思っている。


物を作ったことがない大部分の人間は知らないことだが、何かを作るということは自分に呪いをかけるようなものだ。

集団の中で、「何か」が必要になった時、誰かがそれを買ってきたり、どこから取ってきたりするのではなく「作る」と言ったなら、彼はその呪いにかかっている。
それも大抵の場合、彼自身が自ら望んで呪いにかかったのだ。

「作る」ことを諦めるのは、たやすいと感じるかもしれない。音楽なら、ギターなりアンプなりを捨てて、一生そのことを考えなければ良いのだ。

だが、「作る」ということは完全に自発的な衝動ではない。誰かの「必要」があれば、どうしてもその隙間に自分の作った物を詰め込みたくなる。
ギターやアンプがないのなら、どこからでも取ってきて、「作る」という衝動が心を突き動かしてしまう。
偉そうに言えば、それがクリエイターというもので、その呪いはおそらく一生続く。

一方、「作る」ことが出来なくなることもある。自分が生きるために、家族を養うために、物理的に作る時間が奪われたなら、もはや「作る」という選択肢は彼には残っていない。

そんな時に、人は「語る」のだ。自分が作っていたものや、自分に影響を与えたもの、自分の人生そのものを饒舌に語るようになる。

呪いはそういう「言葉」になって最後の火を燃やす。

もはや語るべき言葉もなくなった時、あるいは本当の意味で呪いは解けるのかもしれない。

私はまだそこに至ってはいない。そして、おそらくその時は、私の全ては意味を失うのだろうという予感がある。

語らないこと

確か21世紀になった頃だと思うが、私の音楽のキャリアの最後、組んでいたバンドが終わってしまうことが決定的になった頃、
大晦日に私と最後に残ったメンバーのTが、一人暮らしの私の家で炬燵に入って、ぼうっとテレビを見ていた。

まだ、大晦日に音楽のヒットチャートを流す時代だった。私たちは次々と流れる去年のヒット曲を聴き、それについて何かしら意見を言ったり、知っている知識を披露しあっていた。ひどい曲が流れた時は、どちらからともなくTVをミュート(消音)した。

ふと沈黙の時間があった。こんなことをしていてどうなるのか、という空しさを覚えたのかもしれない。

私はバンドの話し合いがあった時、メンバーに向かって「君らを信用してはいない」と言ったことを思い出した。どういう文脈でそう言ったのかは覚えていない。だが、まともな曲ができないのは自分のせいではない、という意識があったのは事実だった。

メンバーの一人がそれに激昂して「ならこのまま続ける必要もないな」と怒鳴った。私はその剣幕に驚いて言い訳めいたことを呟いたが、彼はそれに納得することはなかった。

私はあの時に何を語ったのだろうか、と思い返す。多分、何も意味のあることは言っていなかった。だから、問題はそこではないのだろう。
ただ、私の言葉には「形式」がなかった。簡単に言えば「言い方が悪かった」だけだ。

ふと、ミュートされたTVに向かって缶チューハイを飲んでいるTを見た。
彼は私の言葉に怒るでもなく、それでメンバーが去っていっても非難することもなかった。ただ「冷静じゃなかったな」と、後に言った。



その頃に二人だけで作った未完成の曲が残っている。Tのボーカルはピッチが外れたままで、Tのギターと私のシンセとドラムマシンループだけのシンプルな曲だが、確かにあの時間を切り取っているように思える。
それは私たちがまだ、その時に語るべき言葉を持っていなかった証のように思えて、その曲を聴く度、私は少し嬉しくなるのだった。

語れないこと

恋人が出て行ってしまった夜、ベットに寝ていた私は、そこから見えるキッチンに向かう電球色の廊下を見ている。

小さなコンポからサニーデイサービスの曲が流れていて、私は、この素晴らしい世界から永遠に追放されたのだと、悟った。

私は立ち上がり、コンポのスイッチを切ると、深夜の街に出て、歩き始めた。

大学を辞め、職を得た。「作る」ことは止めなかったのは、ちょっとした意地だったのかもしれない。


ある日、職場から帰った私はネットラジオを聴いていた。何かの曲が私の心を突き動かした。

何故かその時、気づいたのだった。心の中で、自分が、あの素晴らしい世界に帰る道がまだどこかに残されていると考えていたことに。

私は零細企業のしがないプログラマだった。そんな道はとっくの昔になくなってしまっているのだ。

私は立ち上がり、ヘッドフォンをつけたまま目を閉じてクルクルと回った。涙があふれ出るのも構わなかった。


これらの事については、私は未だに語るべき言葉を持たない。何かの幸運でこれらが語れるようになるか、もしくは何かほかのもので、この記憶を表現する「形式」を発見するのかもしれない。

記憶と違って、感情は維持できない。だから私たちは語る。語れないのなら適した「形式」を見つけていないのだ。

呪いは一生続く。

「形式」を見つけられる程度に、それが長いことを私は願っている。

Webディレクターだけど、異世界の開発会社に転生した -前編-

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炎上(バーストダウン)

マクシミリアン公爵の執務室で、その哀れなエルフは震える手で羊皮紙を、公爵の座る重厚なテーブルに載せた。

公爵「ふむ、これが義勇兵募集キャンペーンページの修正後のデザインというわけか」

デザイナーであるエルフは力なく頷いた。美しかった純白の髪には艶がなく、顔からは生気が失せている。

公爵「・・・なんか違うのだよ。こう、ガーとした力強さが足りないというか・・・」

そんなエルフの様子を一瞥することもなく公爵は言い放った。

エルフ「・・・」

エルフはもはや反射的に頷き返すのみで、それに対して何の弁明もできないようであった。いや、弁明する気力もない、といったところだろうか。

公爵「しかし、あまり残された日もないことだしな・・・これで良い」

エルフ「!」

エルフの顔に驚きと、安堵の表情が浮かび上がった。そしてそれは同時に張り詰めていた彼女の糸を断ち切ったようだった。
ヒュイという奇妙な息を吐いたかと思うと、彼女の体はそのまま床に崩れ落ちてしまった。

ジャムス「大丈夫か!?」

僕とジャムスがエルフに駆け寄る。彼女は息も絶え絶えに執務室の床にその身を横たえようとしている。慌ててジャムスがエルフを担ぎ込む。

公爵「それで、今回のキャンペーンページについてなんだが。デザインはこれで良い。だが・・・」

彼の視線は、ジャムスがエルフを助け起こそうとしている光景をさっと過ぎると、僕に据えられた。

公爵「キャンページページからそのまま応募できたほうが何かと便利だと思うのだ。ささっと応募フォームを追加してもらいたい」

ジャムス「!」

ジャムスの顔に困惑が広がった。プロジェクトリーダーであるエイダは、大魔法院の会議でこの場にはいない。そんな重要な事を代理である僕しかいないところで決めさせようとしているのだ。


僕「・・・期限はいつ頃になりましょうか」

僕は冷静さを崩さず、あくまでうやうやしく、公爵に尋ねた。

公爵「キャンペーンの開始は3日後としておる。それまでに。ということになるか」

ジャムス「3日ですと!」

思わず声を上げる。なるほど、エイダを出席させなかったのはこれが狙いか、僕は公爵の魂胆に気づいた。
つまりは、宮廷での地位も高く、弁もたつエイダのいないところで、無理難題を通そうと思っているのだ。

少し思案して、僕は顔を上げた。

僕「公爵様は魔族との戦争で数多の功績がある方だと聞いております」

公爵「ほう、異世界人であるお前もそれぐらいのことは知っているようだな」

僕「しかし、戦場には『拙速』という言葉もございましょう」

公爵「なんだと?」

この下賤な異世界人が何か意見を言おうとしている、そんな気配を感じ取った公爵の目つきが険しくなった。それは驚くほど冷徹で残酷さを秘めた視線だった。
僕は怯まず続けた。

僕「公爵様のご尽力で、キャンペンページの見事な出来映えとなりました。いわば陣容は整ったといったところです。」

公爵「ふむ」

実際にはエルフの功績だが、公爵はまんざらでもなさそうである。

僕「キャンペーンページを公開した後、おそらく国民の義勇兵への志願の意気は大いにあがりましょう。
しかし、その『熱』がいかほどの物か、我々はまだ見ておりませぬ。いわば相手の陣容は未だ明かでない。と言えましょう」

公爵「むむ」

僕「凡庸な将軍であれば、義勇兵の志願者数などタカが知れております。そういった方のCPであれば、我々としても応募フォームの一つ二つ簡単に作り上げてみせますが・・・」

ここで、一呼吸あける。

僕「・・・恐れながら、公爵様のキャンペーンページは、こちらの想定を上回ると思われます!」

公爵「ほほ、そうか!」

僕「ならば、民の愛国の熱はそのままに、万全を期し、いったん『応募は○日後』として、日を空けるのも一興かと」

公爵「そのほうの言い分ももっともだ。民草の愛国の情を少し焦らすのも面白いかも知れぬ」

ジャムスは気を失ったエルフを背負って、僕のほうを呆れたように見ている。よくもそこまでおべんちゃらを言えるものだ、といった顔であった。

公爵はしばし思案していたが、顔を上げて言った。

公爵「ではキャンペーンページ公開の1週間後といったところでどうだ。今から10日後ということになるか」

僕「十分でございます」

公爵「しかし」

公爵の目が再び、厳しく僕を捕らえた。

公爵「いかに代理とはいえ、その言葉、大魔法神官(エイダのこと)が言ったものと考えて良いだろうな?」

ジャムス「そ、それは・・・」

僕「私は一介の研究員に過ぎませぬ。しかし、それでも大魔法院の末席に列する身。
二言はありません。もし出来ぬとあれば・・・」

公爵「?」

僕「その時は、我が首を差し出しましょう」

公爵「ははは」

公爵は破顔して、その豪快な笑い声を執務室に響き渡らせた。しかし、その目は変わらず冷徹にこちらに向けられている。

公爵「その方の言葉、確かに受け取った。良いな!10日後だぞ」

作戦会議(ブリーフィング)

魔法院にある、エイダの会議室には重苦しい空気が漂っていた。

ジャムスは苦虫をかみつぶしたような顔で黙り込み、他の神官たちも、要求仕様書を前に呆然としているようだった。

エルフは会議室の端に椅子を並べられ、その上で器用にグウグウと眠っていた。

バタンッ

会議室のドアが開いた。エイダだった。

エイダ「ちょっと!聞いたわよ!どういうこと!?」

僕「すまない。押し切られてしまった。僕の責任だ。」

僕はエイダに頭を下げて言った。

エイダ「そういう事じゃないわ!どういうことなのあなたの首を賭けるって!」

驚いて顔を上げると、エイダの透き通るような白い肌は怒りで真っ赤になっている。

エイダ「そんな馬鹿げた条件で仕事を受けるなんて!」

僕「何を言っているんだ。僕一人の責任になるだけなんだぞ」

エイダ「ふざけないでっ!あなたを失ったら私はっ」

僕「?」

何故、彼女がそんなに怒っているのか、よくわからない。戸惑ってジャイムのほうを見ると、意味ありげな顔でエイダと僕を交互に見ながらニヤニヤとしている。

エイダ「ま、まあそんなことはいいわっ!それでも10日なんてよくも無茶な条件を受け入れたものね。要件定義すら出来てないっていうのに」

僕「それが限界だったんだ。それに不可能なら、僕もこんな話を受けたりはしないよ」

エイダ「方法があるの?」

僕「なくはない。ただ、幾つか情報が欲しいのと、君のコネを使って、色々とやってほしいことがある」

エイダ「何だってやるわよ!あなたって本当にどうしようもない奴ね!」

彼女は相変わらず怒っているようだが、その表情は幾分か和らいでいるように見える。

そんなに怒られなくて良かった。僕はとりあえず思った。

続き↓
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プログラマの奇妙な待遇

むしゃくしゃしてやった

クソ雑魚フリーWebエンジニアである私は、求人サイトが見るのが好きである。

自分のスキルや経験を登録しておくと、中年の私にさえスカウトオファーが来るし、そこで提示される最高年収を見てほくそ笑んだり、たちの悪そうな人買い企業がユーザー企業に常駐させるプログラマをかき集めようとあの手この手で自社の魅力を訴えてくるのは微笑ましい。
昔は冷やかしで面接にまで行ったりしたものだが、よほどの好条件が提示されない限り就職する気はないので、最近はさすがに自重している。

そういう悪趣味を通して知ったことだが、プログラマの募集要項において以下のような記載が増えてきている。

  • 2台以上のディスプレイ支給
  • ハイスペックPC使用可
  • 開発はGitHub、CircleCIなどの最新の開発環境を用意
  • バランスボールに座って仕事しています!

などである。

しかしこれは奇妙なことに思える。

バランスボールはともかくとして、プログラマのデスクにどんなPC環境があろうが、開発体制がどうなっていようが、それは会社側の設備投資やワークフローの問題であって、プログラマの「待遇」とは言えないからだ。

例えば同様にPC環境や開発体制によって生産性が左右されるであろう、CADオペーレーターやデザイナーの募集要項に、このような記載がなされているのをあまり見たことがない。

この事から、プログラマというのは何やらモダンな環境を提示しないと集まらない、と企業は考えていることがわかる。

プログラマの待遇と給与

「待遇」というのは本来「給与」によって大半が決まるものだ。

正社員のプログラマの給与は、実のところそれほど高いわけではない。せいぜい、その会社の課長クラスと同じか、それより若干低い程度である。

それでも十分高いじゃないか、という声も聞こえてくるが、プログラマという特殊な職能と労働市場が決めていることなので、これはどうしようもないことである。
それに彼らは社内力学における「出世」というのをほとんどしないし、望んでもいないので、生涯賃金の期待値という意味で、それほど恵まれているわけではない、と言い訳しておく。

また派遣や、偽装請負などでやってくるプログラマの単価は高いので、そちらはさぞ沢山貰っているのだろう、と思う人がいるかもしれない。
だが、この単価には派遣会社などのマージンや、違法な多重派遣により、様々な会社が中抜きしている分が含まれており、末端のプログラマに渡るのは案外妥当な額になっているものだ。
(立ち回り方次第では、それらの中抜きをすっ飛ばすこともできるので、提示された単価を丸々懐に入れることも可能ではある。が、それは諸々のリスクと引き換えであって、契約内容によっては面倒なことになるので、私はあまりしない。なので実態はよくわからない)

スキルと給与

問題は、プログラマの「給与」がそのスキルとはたいして比例しないということである。

スキル向上に興味がなく、管理画面のページごとにPHPをベタ書きするような生産性が低いプログラマと、フレームワークを自在に使いこなし、一人でサーバー運用まで出来てしまうようなフルスタックなエンジニアの給与の差はせいぜい4~8万円程度、年収にして100万円前後だ。

プログラマの想像に反して、スキルがすごく高いので、年収1000万ぐらいもらっているという正社員のプログラマはほとんどいない。

普通、それぐらい貰おうと思えば、CTOなど、マネジメントも兼任するプレイングマネジャーのような立場にならなければならず、そうなると役員待遇で残業代も出ない長時間労働を強いられる事も多いので、まっぴらごめんだという人も多い。

シリコンバレーの企業のように、そのスキルに応じて、純粋にプログラミングだけをしているだけの社員が、高額の給与を得ているという例は、日本ではほとんど有り得ないのだ。

給与と付加価値

労働者の「給与」がどのようなメカニズムで決まるのか、経済学者でない私に迂闊なことは言えないが、少なくとも、プログラマーが作り出す「付加価値」が関係していることは確かだろう。

会社が稼ぎだす全体の付加価値はビジネスモデルであったり、営業力であったり、組織力によって作られる。

プログラミングによって構築されるITシステムがその会社の付加価値にどれほどの影響を与えるのか、というのは、ほとんどの場合、プログラマが決めることはできないし、ましてや最新のフレームワークや保守性の高いシステムを構築したところでそれほど付加価値が増大するわけではない。

プログラマには最低限、現状の組織に合致したITシステムを構築して多少の「効率化」ができればいいとされていて、その「効率化」した分と、労働市場の動向がプログラマの給与を決定していると言える。

そしてそれは、シリコンバレーと比較して惨めになるほど低い。

言い換えれば、日本の企業がシリコンバレーのそれと比較して低い付加価値しか生み出していないということでもある。

プログラマの待遇

以上の事情で、ほとんどの会社にとって、ITシステムが稼ぎ出す付加価値が低いために、プログラマの「給与」をそれほど上げることができない。無い袖は振れないということだ。

しかしどうせ採用するならスキルの高い、優秀なプログラマが欲しい。

ここで、一番最初の「奇妙な」待遇の話がでてくる。

つまりは募集要項を通じて、スキルの高いプログラマが喜びそうな「玩具」を提示して、「給与」で報いることのできない「待遇」を補完しているのである。

企業に、これらの「玩具」を募集要項に書いて釣れば良いと入れ知恵したのが誰かは知らない(どうせ求人サイトの営業あたりだろう)が、それらは明らかにGoogleFacebookなどのシリコンバレーの勝ち組企業から拝借されている。あちらではバランスボールに座って仕事することがCoolなんですよ、と。

しかし、それらを提示している会社の生産性がGoogleFacebookと比較してどうなのか、と考えれば、随分とプログラマだけに不相応な事を言っているものだという印象がある。


そもそも、日本はITシステムによる生産性の向上が国際比較で低い、とも言われる。

ITシステムが出来ること、つまりはシステム化によって全体の付加価値を増大させる余地は諸外国と較べてずっと大きいのである。
スキルの高いエンジニア。それも視野の広いアーキテクトがいるなら、ビジネスモデル全体を見直し、「IT化」によって会社の生産性や収益を根本から上げることも可能かもしれない。

しかし、それは往々にして、既存のビジネスモデルや組織の論理を破壊してしまうので、経営者はそんなシステムを歓迎しないし、それを実行させる権限をプログラマやアーキテクトに与えることもない。

なので、インハウスのプログラマは、今日もそれほど付加価値をもたらさないし、制作スキルも必要のないローカルな営業管理システムを作り続けることになっている。給与はそのままで。


いつの日か募集要項に、子供じみたPC環境の自慢や開発環境の提示がなくなったその時、初めてプログラマはそのスキルや視野の広さによって評価されるのかもしれない。

だが、その日はいつになっても来そうにはない。

かくして私は通知を止めた。今月の懺悔

定点

ようやく、懺悔の時がやってきました。
今月は本当に調子が悪かった。どうも文章に納得がいかないことが多く、もがいていた訳ですが、
アクセス数とか、反響的には、今月のエントリが一番すごかった、というのがなんとも皮肉な印象です。

「なぜプログラマはあなたの事が嫌いなのか」の反響

多分buzzり方的には、以前の「業務改善がうんたら」以上のものがありました。
私は、スマフォにはてブとtwiiterアプリをいれて、通知をONにしているのですが、
一日中スマフォが震え続けるので、その日は全く仕事になりませんで、最終的には全部通知を切る羽目になりました。

あんまり関係ないんですが、私戸川純が好きで、ライブにこっそり行って後ろのほうから「純ちゃんー!」と叫んだりしてる
わりと気持ち悪いおじさんなわけですけど、戸川純の35周年(!)のインタビューで、その歌詞についてこういう一節がありました。

戸川純全歌詞解説集――疾風怒濤ときどき晴れ (ele-king books)

戸川純全歌詞解説集――疾風怒濤ときどき晴れ (ele-king books)

www.cinra.net

もし問題提起をして、答えも出していたら、それは主張になっちゃうじゃないですか?

私はよっぽどのことがない限り主張はしないんですよ。さっきみたいに「かな」でとどめておくタイプなんですよね。だって、人生とか人間とか、正直この歳になってもまだまだわからないことだらけだから。わかった気になっちゃいけないとも思うし。


これ読んで私ちょっと、ショックを受けまして。ああそりゃそうだな。と。
私みたいなクソ雑魚ナメクジエンジニアが何らかの結論とかを出しても、結局は経営者が何とかしろ的な「主張」しかできないわけですよ。

文章的に物足りない時は、つい取ってつけた「主張」をやってしまうんですが、私それほど視点が高いわけじゃないし、いつもなんだか、最後が嘘くさい、居心地の悪い気持ち文章になるのはこれが原因か、と。

というわけで、あのエントリについては、奇妙な翻訳文体で、出来る限り視点を並行に飛ばして、
客観的ではあるけれど、あくまで遠くから「現実」だけを書いたわけで、
それがある意味、普遍性を持った要因かな、と思っています。


ブクマやtwitterの反応を見ると、一番多かったのは「わかるわかる」的な反応でした。
あとFacebookのシェア数がエグいことになっているのは、
営業やマネジメントをやってるはてなー以外の人に「これが俺たちの現実だ。お前も見ろや」と
お勧めしてくれた方が多かったということだと思うわけで、これはもう文章としては一番幸せなことでした。

とりあえず、様々な反応については、プログラマも営業も、マネジャーも経営者も、あれを読んで、じゃあどうしたらいいのか、というのをそれぞれが考えていただければ、というのが作者の思いです。

ピープルウェア、文章修行について

今月も、幾つかbooks&apps御中のほうに寄稿させていただきました。

blog.tinect.jp

blog.tinect.jp

このうち前者の記事を書き終わった時に、「そういや、デマルコの『ゆとりの法則』とかいう本があったな」と思い、家を探したのですが、見つからず。
ありゃ買ってなかったか、とamazonを開いたら、10年前に買ってる、って表示が出てるんですよ。

どうも、売り払って酒代にしてしまったようでした。書い直すのもバカバカしい気がしたので、図書館に行って借りてこようとしたのですが、
生憎、貸出中で「ピープルウェア」しかありませんでした。これも、買って読んで売り払ってしまった本なのですが、せっかくなので再読しました。

ピープルウエア 第3版

ピープルウエア 第3版

例のエントリが「ピープルウェア」の影響を主にその文体に受けていたのはそれが原因です。
正直、私のエントリを読んで、フンガフンガするぐらいなら、素直にこちらを読んでいただいたほうが、世のためになると思いますので、マネージャーや経営者の方は是非ご一読ください。

あと、同時に目についた、こちらの本も借りてきたのですが、


これ本当に名著で、実に全ブロガー必見の、良い文章を書くコツ(特に短くまとめるコツ)が詰まっている本で、
大変勉強になりました。

例のエントリ以降、このブログ読みやすくなったな、と思われている方がおられましたら、この本の影響ですので、
是非ご一読をお勧めします。


なんだか、宣伝ばかりになってしまった気がしますし、何も懺悔してないじゃないか、というエントリですが、
書く時に何も考えなくていいエントリは月一本のこれだけですので、何卒ご容赦いただければ。

それでは皆さま、来月もよろしくお願いします。


追記

つい出来心で、amazon貼り付けをしたところ、はてなのアフィIDが入るのが癪だったので、自分でアフィリエイトプログラムに申し込んだのですが、7分で却下された為、以降本サイトは、amazonへのリンクは極力なくし、またリンクに何のアフィIDも混入されないよう注意深く運用することといたしました。
以降、ネット広告に過敏な皆さまもご安心してクリックいただけます。

また、同時にPro版への切り替えを行い、はてなadsense広告も削除いたしましたので、広告ブロッカーを使用されていない方も安心してご利用いただけるようになりました。

以上の施策は、90%ほどはアフィプログラムにサイトを却下されたことによる腹立ちまぎれの行動となりますが、10%ほどは読者の皆様への感謝の気持ちの表れと解釈ください。今後とも当ブログをよろしくお願い致します。

2017/03/10 追記

Amazonアソシエイト・プログラムの参加を承認されたので、アフィを全てamazonの自分のアフィIDに変えました。amazon万歳!

みそねこを偲ぶ

随想

思い出の中にしかいない人、それも面識があったわけではなく、
その「作品」を通じて知っているだけという人がいて、2年ほど前、私は彼の訃報を聞いた。

彼の名前は「みらゐ」。ゲームミュージックの作曲家で知られ、同人音楽やバンド活動でもその名を馳せた人だ。
ただ、私のよく知る彼の名前は「みそねこ」で、中学生だった私にとってのヒーローだった。


20年ほど前、MSXというパソコンを買ってもらった私がプログラマとしての一歩を刻んだ頃、
「みそねこ」はMSX・FANというパソコン雑誌の音楽投稿コーナー「FM音楽館」にいた。

かつて音楽はプログラムだった

その当時のコンピューター・ミュージックというものについて少し説明が必要だろう。

DAWはおろか、DTMソフトも一般的でなかった頃、コンピューターで「音楽」を作るということは、「プログラム」を組む、ということだった。
多分、何を言ってるのかわからないだろうから、一例をあげる。

10 play "L4CDEFEDCREFGAGFERCRCRCRCRL8CCDDEEFFL4EDC"

これをプログラムとして実行すると、MSXの内蔵シンセサイザーで「カエルの歌」が奏でられる。
勘のいい人なら"C"や"D"が音符の"ド"と"レ"に相当することがわかるだろう。

当時のパソコン雑誌の音楽投稿コーナーというのは、こういった「音楽を奏でるプログラム」を読者に送ってもらい、審査の結果、選ばれた曲を付録のフロッピーディスクに収録するという形をとっていた。

FM音楽館とみそねこ

MSX・FANの「FM音楽館」もそうした音楽投稿コーナーの一つだったのだが、他の雑誌と違っていたのは、ミュージシャンである横川理彦氏が選者として作品を審査していることだった。

ちなみにこの横川理彦という人。P-MODELと4Dという日本のニューウェーブの最重要バンドの二つに在籍していたこともあって、選考基準が尋常ではなかった。

まず、他の雑誌では無難に採用されるような既存のゲーム・ミュージックの完コピは、ほとんど通らない。代わりに中学生が遊び半分にデタラメに打ち込んだような楽曲でも、雰囲気や光るものがあれば採用される。
結果として、「FM音楽館」は素人が作った実験音楽のコーナーのようになってしまっており、「前衛音楽館」と呼んだほうがいいような有様だった。

私はそういうヘンテコな音楽が好きだったのだが、中高生を中心とした当時の読者としては、曲の独創性や個性など、どうでもいいので、もうちょっと聴きやすい曲を載せてくれないかな、というのが本音であったろう。

そうしたあまりにもフリーダムな「FM音楽館」に"BEAT-R"という楽曲が掲載された。

かっこいい曲だった。

まるで、プロが作ったゲーム・ミュージックみたいにソツがなく、近未来都市を疾走する光景を心に浮かばせる、市販ゲームで使われていても全く違和感がないだろう、そういう曲だった。

そして、それは同時に横川氏が選ぶのが納得できるぐらいに、「変」だった。
小節ごとにアクセントの変わるリズム、跳ねまわるベース、予想もつかない展開。

「変だけどかっこいい」

横川氏が作ってきたFM音楽館のコンセプトと、あくまで普通にかっこいい曲が聞きたい読者の思いが、なんだかよくわからない所で結実していた。
私は感動して、何度も"BEAT-R"を聴き返した。そしてその作曲者「みそねこ」がほとんど自分と年の変わらぬ高校生であることに興奮した。
真似できないかプログラムソースを覗いてみたが、わかったことは異様なぐらい作りこまれているということだけだった。

それから、「FM音楽館」にはかなりの高頻度で「みそねこ」の新曲が掲載されるようになった。
どの曲も「変」で、「かっこよく」、妥協のない音で埋め尽くされていた。

それらが譜面入力も鍵盤でのレコーディングもできない、他でもない「プログラム」で組まれているのだ。

それはまるで魔法で、人間業ではないように思えたし、粗末なスピーカーから彼の曲を流すと、それを奏でるMSXという時代遅れのコンピューターが、自分だけの、特別なものになったようにも感じるのだった。

sEAcAT

しかし時代は巡っていく。いつの間にか、コンピューターミュージックは前時代的なプログラムではなく、DTMソフトと専用シンセサイザで奏でるものに変わっていた。

MSXの最終機種の生産も終了し、広告掲載が見込めなくなったMSX・FANも休刊が決定した。
「みそねこ」と私がいた「FM音楽館」という幸せなコミュニティは雑誌の終焉と共にその役割を終えようとしていた。


1995年の夏、MSX・FANの最終号が届いた。

"sEAcAT"

と題された、最後のみそねこの曲を聴くために私は、急いで付録ディスクを挿入する。

曲は感傷を誘うシンセパッドから始まる。
白鳥の湖」をモチーフとしたメロディが甘くリフレインする。
そして唐突に、それが途切れる。
代わりに全てをぶち壊すようなミニマル風のフレーズがやってきて、そこに、今度は「白鳥の湖」のモチーフが乱暴に重なる。

「終わりは寂しい。でもここで何もかもが終わるわけじゃないだろ?」

コミュニティの終わり、誰もが感傷的になる中、その曲はそう言っているように思えた。
なるほど「みそねこ」らしい。「変」な曲だな、私は思って、一人で笑った。

みらゐ

私と「みそねこ」はそれっきりだ。

あれほどの才能が野に埋もれるはずはない。そう確信してはいた。

MSX・FANがなくなって数年がたち、ネットを始めた頃、有名ゲーム・メーカーのコンポーザーとして、また「みらゐ」という名で、同人音楽やバンドで活躍していることを知った。
楽曲もいくつか聴いてみた。昔のみそねこに負けないぐらい変てこで、それでいてポップないい曲だった。2chや個人サイトに、彼の楽曲を熱烈に愛する人たちの書き込みがいくつもあった。

かつて私を魅了した彼の音楽とその理力は、変わらず沢山の人に向けられているのだ。




そして私は、彼がその才能を発揮するには、あまりにも短すぎる生涯を終えた事を知った。


ある冬の夜、私はエミュレーターの設定に四苦八苦しながら、押入れから大事にとっておいたフロッピーディスクを取り出して、「みそねこ」時代の楽曲を再生する。

FM音源の甲高いファンファーレがスピーカーから昔よりクリアな音で鳴り響いて、
私はすぐに15歳の少年に戻ってしまう。コンピューターとその向こうにある未来に思いを馳せていた、まだ何者にもなっていない少年の頃を思い出す。

きっと、「みらゐ」の楽曲を愛した人たちも、こうして彼の曲を聴く度、彼がBGMを奏でたゲームの場面や、電波ソングで仲間と大笑いした時を思い出すのだろう。私がそうであるように。



彼の曲はどの人の心にも、音楽を媒介にして「その時」を刻みつけたに違いない。
そして、もしその記憶が、長い時を経ても、全く色褪せることがなかったとしたら、それこそが音楽の最高の力なのだ。

みそねこ、みらゐ氏とはそういう事ができた人で、つまりは偉大な音楽家であった。私はそう思っている。

なぜプログラマはあなたの事が嫌いなのか

むしゃくしゃしてやった

営業やマネージャーにとって、現場にいるプログラマというのは扱いづらい存在である。

飲み会などで、普段の彼らを観察してみると。同じエンジニア同士で固まってボソボソとよくわからない話をして、控えめな声で笑っており、総じて温厚で、扱いやすそうな人々に見える。

ところが、仕事になると、彼らはなんやかんのと理由をつけて、スケジュールに文句を言い、プロジェクト途中のリクエストには素直に答えてくれず、あげくには遠回しな嫌味を言ってきたり、極端な場合には、その温厚な仮面を投げ捨てて、攻撃的な暴言さえ吐く事がある。

どうも彼らは我々の事が嫌いらしい、と感じている営業・マネジメント職の人もいるのではないだろうか?

彼らの人格や価値観に問題がある可能性も否定しないが、このような感情的な齟齬は、多くの場合、あなた自身が彼らの「自尊心」を傷つけていることに気づいていないことが多い。

プログラマの自尊心

プログラミングという作業は、原則、単純作業ではない。

まずプログラミングには想像力が必要である。あなたが最初に彼らに提示したぼんやりとしたシステムの「仕様」を現実のシステムに落とし込むために、インターフェースや内部の処理、その運用にまで思いを馳せ、彼らは精緻な積み木のようにプログラムを組んでいく。

あなたの「注文」はその積み木を簡単にぶち壊す。

例えば、プロジェクトの終盤あたりで、クライアントのちょっとした思いつきのインターフェースの追加があったとする。営業のあなたも揉み手に満面の笑みで「それは結構ですな」と、アイデアの秀逸さを賞賛する。追加見積するほどではないが、ここでクライアントの注文をスマートにさばけば、点数を稼ぐチャンスである。

社に帰ったあなたは早速、軽い気持ちで内線電話をとって、プログラマに注文を伝えるだろう。今出来上がっている積み木の上に素敵な青色のブロックを載せてくれないか?というような調子である。

だが、プログラマはその豊かな想像力を駆使してすぐに理解するのだ。その素敵な青色のブロックを載せるには、本来は下に無数の土台が必要であることを。

プログラマは閉口して言う「納期は伸ばせるんですか?」
あなたは言う「とんでもない!ちょっとした変更だぞ!?」

こうなればプログラマは下に土台を築くことを諦めるしかない。なんとか今の土台を使ってその青色のブロックを「差し込む」場所を探すのだ。
不機嫌なやり取りの後、プログラマはシステムのエレガントさを少しばかり台無しにする妥協をして、システムの問題を増やさないように注意深く、その青色のブロックを「差し込む」。

プログラマのプロフェッショナリズムとは、本来あるべき形であった積み木-「欠陥のない」システムを組むことにある。そしてそれは、プロジェクトの初期、(プログラマの脳内にしかない、まだ誰にも見えない形であったとしても)確かにあったのだ。

あなたはこの一件で、その積み木をぶち壊したことに気づいていない。さらに言えば、この妥協によって生じた諸問題の責任は、クライアントはおろか、無批判にクライアントに同調したあなたにすらなく、他ならぬプログラマが負うことになるのである。

このような出来事はプログラマの何よりも「自尊心」を大きく傷つける。

プログラマはずっとあなたの指示に従っていたというのに、突然、そんな指示はしていなかった。最初からこれに対応できるように指示を解釈する必要があったのだ、と言われているようなものだからだ。

そのような急なリクエストでも上手くこなす予知能力じみた能力を持ったプログラマもいることはいる(特に熟練のプログラマはそういう術に長けている)、だが彼らとて全てのケースに対応できるほど全能ではない。しかし、あなたの言い草は、まるでそれができないプログラマは未熟だ、と言っているのに等しいのである。

残業させられることに怒っているのではない

プロジェクトの終盤。進捗の遅れや、不具合が残っていたりして、プログラマに残業や休日出勤を命じることもあるだろう。

その時に彼らが醸し出す、怒気を孕んだ空気に、あなたは辟易しているかもしれない。

だが、直感に反してプログラマは「残業そのもの」に怒ってはいないことが多い。むしろ、彼らは内線電話もかかってこない夜や休日の静かなオフィスを好んでさえいる。そこで彼らは思う存分プログラミングに集中できる楽しい(手当が出るのであればなお良い)時間を過ごせるからだ。

だが、その残業や休日出勤が、あなたの立案した無茶なスケジュールや、途中にさしこんだ仕様変更に起因しているのであれば話は別である。

あなたが悠々と家族と過ごしている時間に、あなたの不適切なマネジメントのせいで、仕事をさせられている人間が上機嫌でいるわけがないではないか。

システムを完璧にすることに関して不平を言うプログラマはいない。それが彼らの仕事である。
だが、それはあくまで最終納品物を使ってくれるエンドユーザーの為であって、あなたや誰かの尻拭いのためにしていることではないのだ。

もし、残業や休日出勤を命じた時に、プログラマが大きくため息をついたのなら、それは休日の予定が台無しになったことだけが理由ではない(往々にして彼らに休日の予定などないのだし)あなたのマネジメントの失敗を一方的に押し付けられ、それに抗弁する無意味さを悟った上でのため息なのである。

退職という抗議

このような事を繰り返しているとやがて、プログラマはあなたの内線電話が永遠にかかって来ない場所に向かうことになる。つまり退職するのである。

彼らが、正直にあなたに恨みつらみを述べることはない。「キャリアパス」がどうとか「家族との時間が」というような月並みの理由を述べて彼らは去っていく。彼らは心底あなたや会社に呆れ返っているので、もはや議論すら拒否しているのである。

結果として、最後まであなたと会社は、彼らを退職させるに至ったワークフローや営業上の問題を知る機会がなくなるし、これを機会にそれらが改善される、ということもなくなってしまう。
あのプログラマは何かこの会社では実現できない理由で退職したのであり、我々のワークフローのせいではないと、あなたは思いたがっているし、実際思い込んでいるからだ。

しかし、退職とその代替人材の確保というコストは確実にあなたの会社の損益に影響を与えている筈である。

プログラマの3年以内の離職率を計算してみたことはあるだろうか?

もし、プログラマ離職率が高い、と感じたのであれば、あなたの会社のワークフローや、マネジメントには確実に問題がある筈だ。

プログラマはそれを指摘しない。それは彼らの職分ではない。
ただ不機嫌な態度を示して、あなたや経営者がそれに気づいてくれるのをじっと待っているのである。