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megamouthの葬列

長い旅路の終わり

カイゼンできない業界もあるんですよ

brevis.exblog.jp

を読んだ。
要約すると、「業務改善には一時的にコストがかかるけど、そこは頑張ってやらないとジリ貧になるよ」ということなのだが、末端のフリーランスIT土方の立場から言わせてもらうと「知らねーよ」という感想しかない。

まあそれだと話が終わってしまうので、私がサラリーマンで、末端の平社員IT土方だと仮定して、ボトムアップ型の業務改善が成立する条件を考えてみたい。

カイゼンする空気を作るということ

カイゼンと言えばトヨタであり、トヨタといえばカイゼンだが、噂によるとトヨタの工員たちは、頼まれもしないのにガンガン作業をカイゼンさせて勝手に作業効率を上げていき、いよいよ自分の工程がカイゼンできないまでに最適化されてしまうと、ロボットに置き換えられ、今度は自動化されていないラインに移動させられ、再び自工程を一からカイゼンできることに涙を流して喜んでしまうほど「カイゼン空気」が流れているらしいのだが、そういった「空気」が現場に流れているのであれば、経営者や上長は特に何もしなくても最高の稼働率を手にすることができるわけで、大変素晴らしいことである。

問題はどうしたらそういう洗脳ができる空気が作れるのかだが、酔っ払った時に買ったトヨタの本があったので、カイゼンの項目についてパラパラ読んでみたところ

  • 作業をカイゼンするための視点や気づきなど、テクニカルな部分のサポート(教育)
  • カイゼンできるアイデアを上長にレポートで月一で提出させる(コミュニケーション)
  • カイゼンを実施する、失敗した場合は会社でリカバーする(リスクの許容)
  • 結果に応じて表彰したり報奨金を与える(インセンティブ)


というポイントがあるようだった。平たく言えばこのようなことを導入できれば、現場の作業効率など勝手に改善していくのですよーということを、トヨタをクビになった社員がセミナーや本を書いて喧伝し、実際に同じようなシステムを色々な会社に取り入れさせている筈なのだが、実際のところ世の中がトヨタ化されているようには全く見えない。

このことから察するに、トヨタ式のカイゼンは、間違って伝えられているか(つまり元トヨタの講師が全員嘘をついているか)、または車を作る時にしか応用できないという話なのかもしれない。

ここではまず、なぜトヨタで「カイゼン空気」が成立し、例えばIT業界などでは成立しないのか、ということを考えていきたい。

雇用の安定と年功序列

先に、カイゼンを行うには「教育」と「コミュニケーション」が必要だということを言った。この二つが意味を持つには雇用の安定と年功序列が不可欠である。

昔、ある中小規模の制作会社にいたことがあったのだが、社内MLに定期的に業務改善のアイデアを送ってくる人がいた。内容は「全員CodeCompleteを熟読しよう」とか「タスク管理システムの構築が必要」とか、日々の作業に追われている我々にとっては「いいとは思うんだけど、そんな暇ねえよ」という内容であり、上長ならまだしも、送り主は他部署の平社員の若者だったので、私はメールが来る度にゴミ箱にドラック&ドロップしていた。

喫煙所で、古株の社員に「あれなに?」と尋ねたところ、事情は知らないが彼の部署は社内ニートを飼育する左遷先として有名な部署であり、ほぼ仕事がない中、必死にああやって業務改善のアイデアを送って、あわよくば復帰しようとしているのだよ。と教えてくれた。

この逸話は二つの教訓を我々にもたらしてくれる。

  • 暇な人間の思いつきは誰も聞かない
    • なぜなら忙しい現場で実際に通用するアイデアではないことが明白だからである。
  • 牢獄から聞こえてくる悲鳴に耳を傾ける者はいない。
    • 業務改善の提案はボトムアップとしても、必ず上長の評価とお墨付きをつけなければならない。

こうならない為には、まず雇用の安定が必要である。トヨタの工員は高卒で工場に入り、黙々と作業をこなしながら、カイゼンのテクニカルな面についての教育をじっくりと受けることができる。3年も働ければ、現場でもそれなりの地位があるし、彼の思いついたアイデアはそれなりの説得力を持つことになるだろう。

次にそれを評価する上長は、アイデアを評価するために現場に精通していなければならない。つまり上長は工員なり、現場からの叩き上げが好ましい。年功序列で出世することは昨今非難されることも多いが、現場に精通した管理職をその経験年数に応じてほぼ自動的に成立させるという意味においては、年功序列制度はわりと効率的な制度であることがわかる。

財務基盤とリスクの許容

最後は「インセンティブ」と「リスクの許容」についてだ。言うまでもなく、インセンティブとしてボーナスを出すのなら、会社に金がなければいけないし、稼働率を20%もあげたアイデアに対して、金一封というわけにはいくまい。ようするに売上が入る前にそれなりの人件費を割いていい程度には現金を保有している必要がある。
また、良かれと思った提案が「ガリガリ君ナポリタン味」なみの失敗を引き起こす可能性もある。それらのリスクを致命傷で抑えるためにも、やはり財務基盤が安定していなければならないと言える。

IT企業はなぜカイゼンができないか

よく知らないトヨタについて、書くのはいい加減疲れてきたので、IT業界に話を移そう。これらの視点をIT企業に当てはめるとどうなるだろうか?

  • 雇用の安定
    • 離職率高め、バンバン人やめるし、バンバン人出向させるのがIT企業
  • 年功序列
    • 大抵、たまたま会社が上手く行った時期にそこにいたメンバーが出世する。なので、ベンチャー系では大抵、上に行けば行くほどバカがいる。さらに技術的なトレンドの変化が激しすぎる為、エンジニアとして優秀な人が管理職になったとしても、持っている知識は10年前のままだったりする。
  • 財務基盤
    • そもそも装置産業ではないので資本金がすくない。売上は役員報酬になり、役員報酬は増資ではなく、社長のフェラーリに化ける。
  • リスク管理
    • 社長からしてたまたま上手く行ったことを自分の実力だと思っているので、失敗には容赦がない。簡単にクビにしたり、精神病になるまで詰めるのもこの業界の特徴である

というわけで、IT業界にカイゼンの入り込む余地はない。

ではどうすれば良いのか?ということを書きたいが長くなったので、それはまた次回。